スポンサーサイト 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
鴨魂本のサンプル 
やはりサンプルがあった方がいいとご意見をいただいたので、少しですが載せさせていただきます。
一応ここは銀土サイトなので、サンプルをご覧になりたい方は>>続きを読む からお入りください。

「はつ恋」蓮見さん

成績トップの生徒会長。こう呼ばれるのは聞こえも響きも良くて気に入っている。
「おはよう。あ、君。スカートが少し短いよ。気を付けてね」
毎朝自主的に校門に立って挨拶と身だしなみのチェックをするのは、先生方にも評判が良い。
「いや、注意を受けたからって内申書の減点にはならないよ。あくまでも僕からの忠告だ」
「会長って真面目ぇー」
そう言って挨拶を返してくれる生徒達にも、朝の日課はおおむね好印象だ。

ただ一人、彼女を除いて。

「また君か。スカートの下にジャージを履くのは、みっともないから止めろと言っただろう?」
「ウッセーアル。どっちも学校指定の服ダロ、違反じゃねーヨ」
言葉使いも態度も悪い留学生は僕の天敵。
「毎日ウザいネ。ワタシ優等生キライアル」
立ち去る背中は僕より小さい。なのに言い返せなかった自分に唇を噛む。
「僕だって嫌いだ…」
誰にも聞こえないように口の中で呟いた思い。でも彼女が嫌いな理由は、単に馬が合わないというだけでは無い。
僕が叶わぬ恋をしている相手、その人は彼女が最近付き合い始めた相手と同じ。だから僕は嫉妬して、あまつさえ逆恨みに似た感情を抱いている。
羨み、妬み、嫉み。
この美しくない感情は僕には慣れたものだけど、彼女に感じる気持ちは今までの思いよりずっと強い。
恋心は人を変える。良い意味にも悪い意味にも。

(続く)




「拝啓、天邪鬼より愛を込めて」松柳さかなさん

「副長、お見えになられました」
 閉めた障子の向こうからふいに寄越されたその台詞に、土方は愛刀を手入れしていた腕をぴたりと止めた。
 本日、この屯所を訪れるべく予定が入っている『客人』はただ一人。
 一度も会ったことはないが、その容姿だけは鮮明に予想できる相手を思い、土方は鈍い嘆息を吐いて打粉を畳へ置いた。
 すぐに行く、と返し、刀身に塗った油を布で一拭いして鞘へと戻し立ち上がる。書斎机に置いていたスカーフを慣れた動作で襟元へ巻き、壁に掛けていた上着をバサリと羽織って刀を携え、『真選組副長』としての体裁を全て整えてから、土方は一瞬の間の後、それを振り切るように障子を開けた。
 時刻はまだ昼というより朝に近い。暦の上では春なのだろうが、如月半ばといえばまだ雪がちらつくこともある。
 高く澄んだ空の色は、鮮やかな蒼穹色に染まっているものの、吐く息は白く、きんと冷えた空気が頬を刺した。それでも、庭に植えられた早咲きの寒梅や紅椿の蕾が幾つか鮮やかに綻んでいる辺り、緩やかだがしかし確実に季節は移ろいつつあるのだろう。
「……副長?あの、先方がもう……」
 障子を開けたまま動かない上司に向かい、廊下で片膝をついていた部下が伺うように声をかけるのに、土方は綻んだ椿の花を眺めたままああ、と気のない相槌を打った。
「やっぱり似てたか?あの野郎に」
 お前、会ったんだから分かるだろうと、ふと思いついて問いかければ、立ち上がった部下ははい、ともはあ、ともつかない生返事を曖昧な表情に乗せながら頬を掻いた。
「そりゃ、似てると言えば勿論似てますよ、外見は。流石に初めはちょっとびっくりしましたし。けど、全然違います。俺でなくても、ウチの人間なら誰だって見分けつくと思いますよ?」
「……そうか」
 まぁ、人間というものは氏より育ちというし、性格も大分違うようだから、そんなものかもしれない、と。
 部下の言葉に安堵とも落胆ともつかない真白い溜息を吐きながら、土方は招かれざる客の待つ場所へ向かうべく、踵を返した。

(続く)


「Paraphilia」 ゆずき

 伊東の行動にふと疑問を抱いたのは、篠原が副会長になって半月ほど経った頃だった。
 伊東は、放課後生徒会室に自分の鞄を置くと、フラッと何処かに消えていくのだ。二十分程で戻ってくるので、最初は職員室にでも生徒会の所用で行っているのだろうと気にしなかったが、ある時思い立って篠原は伊東の後をつけてみた。
 別に悪い事をしている訳ではないのに、どこか落ち着かない気持ちで後姿を目で追う。伊東の後に続き階段のある場所まで来て、篠原の心臓は何故かトクリと高鳴った。職員室へ向かうには下りないと行けない階段を、伊東は逆の方向、つまり上へ上って行ったのだ。最上階にある生徒会室の上は屋上しかない。伊東は一人屋上へ向かっていた。
 何故?何の為に?
疑問は好奇心に変わり、篠原はドキドキと煩い胸を押さえつつ、伊東の背中を覚られないように追った。
そのまま屋上へ上がるだろうと思っていた伊東が、急に立ち止まり辺りをきょろきょろと見回す。驚いた篠原はとっさに壁に隠れ息を殺した。緊張で痛みを感じる程心臓が早鐘を打っている。
握ったままの掌は汗でじっとりと濡れていた。篠原は息を肺に取り込むために天を仰ぎ、落ち着かせようと深く呼吸を繰り返した。
どれくらい隠れていただろうか。頃合を見て篠原が顔を覗かせると、そこに伊東の姿は無かった。
既に屋上に上がったのだろうか、篠原は階段を駆け上り屋上の扉を開けようとした。が、そこは施錠されていて開く事は出来なかった。
伊東は一体何処へ消えたのか?
篠原はキョロキョロと辺りを見回し伊東の姿を探した。何処を見ても濃いグレーの壁しかないと思ったその時、ふと、篠原の視線がある場所で止まる。壁と同化して気がつかなかったが、屋上の扉とは別にもう一つ、ドアがあった。壁と同じ色に塗られたドアは、ぱっと見ただけでは気が付かないほど存在感が無かった。
 伊東はここにいるのか?
 篠原は高鳴る鼓動を抑えつつ、そっとドアを開けた。
 そこには、トイレの個室が二つ、それに使わなくなったと思われる掃除道具などが数本壁に立て掛けられていた。音を立てないようにそっとドアの内側に入り込み、トイレの個室のドアの前に立つ。入り口に近いトイレの扉は開いていた。もう一つの奥の方のトイレは鍵がかかっていることを示す赤い表示がドアノブの部分に示されていた。
伊東会長は何故こんなところまで来て、一体何をしているというのか?
 用を足すだけなら、生徒会専用のトイレがあるのでそこを使用すればいい。こんな人目につかない所に来て何か良からぬ事でもやっているのか。
 篠原は意を決して、伊東が入っていると思われるトイレのドアをノックしようとした、その時―――。
「ん…あっ、はぁ…はぁ…」
吐息のようなか細い声が、ドアの内側から聞こえた。篠原は手の形をグーにしたままドアの前で動けなくなってしまった。

(続く)


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。